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少し前、高校生の未履修問題が騒がれましたが、腹立たしい事に我が母校もその一つでした。

それにしても気になるのは、報道される中で届いてくる話が受験絡みばかりで、履修科目の多い少ないについても受験と照らし合わせているだけ。日本の高校は、いつから予備校になったのでしょうか?受験科目どうのこうのという前に、歴史を学ぶ事の意義や重要性の話はせんでいいの?その程度の歴史認識で「先生」なんてよくもまあ恥ずかしくないのかね?
それから履修した生徒から「損した」なんてコメント。なんか勘違いしとるな。損ではなく、不幸中の幸いなんだぞ。

いじめによる自殺など、日本の教育を取り巻く状況は狂ってます。

ふと、西水美恵子さんならどう思っておいでだろうか?

そんな想いが頭を過ったが、だからという訳ではなく、200年5月号「選択」への彼女の寄稿文を読んだ。う〜ん、やっぱ凄いわこの人。でも、バングラの村長もトルコのおかんも凄い。そして何より子供たちの健気なこと。私がネパールのポカラで泊まったゲストハウスには下働きの女の子がいたが、二階のバルコニーから表通りを眺めていると、彼女が登下校の小学生の列をじっと見つめて立っている姿をよく目にした。もちろん彼女は学校には行ってなかった。

働く子供。

かつて日本でも当たり前の風景だったそうだ。私の母も小学校の目の前に住んでいながら家事にこき使われて通わせてもらえなかった。
旅人と接する機会が多いのも働く子供たち。一生懸命こき使われ、それでも明るく振る舞ってね。だからといって、それで良いわけがない。あの子らだって本当は学校に行きたいだろう。
でも、学校に行けたからといって、それで問題が解決したわけではなかったのね。ったくもう!何とかならんのか! 西水氏が地元の政治家に激怒したのはもっともな事だ。

で、そんな彼女を宥めたのは子供たち。

負うた子に教えられるとはこの事か。

リンクしといたけど、念のために引用。

第5回 子供に気づかされた教育現場の矛盾

西水恵美子

春や秋、所によっては真冬にも、新学年の始まる時期は国々の気候風土に左右されるが、よくその時期をめがけて 出張したものだった。早朝、ホテルを抜け出して、登校する子供の姿を探し歩く。運良く出会ったら「英会話の練習」ですぐ仲良しに。校門まで付き合って、宿 題の文句から授業の批評、果ては先生の悪口までと話は尽きない。

変な趣味と笑われても仕 方ないけれど、先生の悪口は、年金目当てに教職を賄賂で買う「幽霊教師」の存在を気付かせた。鞄の中に真新しい教科書が収まっていればひと安心。無ければ 無いで「なぜ」と聞く。数カ国で、教科書配布には賄賂が要る、と子供たちから教わった。お弁当の中身を聞いたら、給食はどうして「お客さん」の来る日にし か出ないのと逆に聞かれて、某国文部省役人らの給食詐欺を発見する糸口になったこともあった。いつでも、どこでも、子供たちは正直で、物怖じせずに貴重な 知識を授けてくれた。

きっ かけは約20年昔、トルコでの偶然だった。すでにその頃からヨーロッパ連合(EU)参加を目指していたトルコは、西欧にかぶれていた。特にイスタンブール がそうだった。ある日、空港に向かう車窓から、ヨーロッパ的な町並みをぼんやり眺めていたら、頭をスカーフで覆った女生徒の登校姿が突然視界に飛び込んで きた。ドキリとした。イスラム原理主義が秘める危険性を本能的に感じ取った瞬間だった。

翌朝、何か見えない力に背中を押される思いがして、首都アンカラの路上に出た。地図を片手に貧民街を歩いていたら、心配したのだろう、登校する娘たちに付き添ってきた母親に声をかけられた。家でお茶でも飲んでから帰りなさいと誘われて、そのまま半日居座ってしまった。

学 費稼ぎよと微笑んでせっせとレースを編むその人に散歩の理由を説明すると、彼女は手を止めて大きくうなずいた。イスラム教の真髄は「普遍の愛」と「大いな る寛容」だと前置きして、片言の英語で教えてくれた。原理主義どころか、この街ではイスラム過激派の洗脳活動が活発。だから毎日娘たちを学校まで送り迎え する。コーラン(イスラム経典)は、礼拝の場では男も女も頭をかぶって謙虚にと諭す。それだけの当たり前のことが、無知なイマーム(導師)に曲げられてし まう。原理主義に染まる人間はコーランを読んでいない。非識字イマームが多いのにも呆れてしまう。教祖モハメッドの奥さんはやり手の実業家、イスラムが女 を卑下するわけがないでしょうと笑って、彼女はぜひコーランを読みなさい、英訳があるはずだからと勧めてくれた。

それからすぐ、まるで申し合わせたように、パキスタンのあるNGO会長が知る人ぞ知るユスフ・アリ訳のコーラン(1934年出版)を贈ってくれた。美しい英語にリズム感の溢れた訳はとても馴染みやすく、コーランは詩、吟詠するものと初めて知った。

すっかり病みつきになった朝の散歩に学校訪問を加え、コーランも好きな部分は暗唱するほど読んだ。みなどれ程仕事に役立ったことか計り知れない。

旅程無視の飛び入り学校訪問が癖になったのは、確か10年前バングラデシュを初めて訪れた時だった。イスラム教国では稀に開放的な文化だから、原理主義や過激派など心配無用とのブリーフィングに安堵して、東西南北ひと月余り、草の根巡りの旅だった。

貧 しいバングラデシュでも最も貧しい北西部を、インド国境にそってドライブしていた時だった。国道からその晩泊まる村に向かう田舎道に乗り入れた途端、雲一 つない真昼の熱天下に幕が下り、その影に頬を撫でられた気がした。熱帯の眩しい光によく似合う原色とりどりのサリー姿が、路上に田畑に溢れる如く見えてい た働き者のバングラ女性が、かき消えていた。

思わず車を止めてと騒ぐ私に仰天した部下た ちは、バナナ畑の奥深くに学校らしき建物を目ざとく発見、独り合点してしまった。パーダ(イスラム原理主義社会に見られる女性外出禁止の習慣)を説明しよ うとすると、心配するなと遮って、時間はあるから大丈夫、訪問してみようとさっさと下車してしまった。しかし、校庭に近づいた途端、彼らもハッと棒立ちに なった。女子教育に熱心なお国柄、昼休みの校庭に溢れているはずの女の子が1人も見当たらなかったのだ。

村 人が共同出資してつくった小学校だった。変な外国人が来たとの知らせに、村の有力者が駆けつけた。「敬虔なるイスラムの村にようこそ」と歓迎された部下た ちは、慌てて「ボスは彼女です」。女の私とは視線など合わせもせず、もちろん握手はもってのほかのイマームだった。透明人間とはこういう気分かと思わず 笑ってしまった。

お茶をいただきながら女子教育はと尋ねると、女に教育は無駄と冷たい。 なぜですかと問うと、コーランの教えだと胸を張る。しめたとばかり、どのスーラ(章)にそう書いてありましたっけと、手提げから取り出したコーランの頁を 繰り始めた。実は自分は読んだことがないと白状してくれるまで、時間はかからなかった。歴史的な観点から見れば、まるで女性解放革命宣言ともとれるコーラ ン。仏教徒だから深くは知りませんが、と断って女子教育や女性の地位に関した部分を拾い読みしながらのイスラム談議となった。

日が西に傾く頃、ふと気がついた。女子校をつくると言い出したイマームが、もう私の目を避けずに話しかけている。「夕食をご馳走しよう。妻と娘に会ってほしい」。黙って差し出した私の手を強く握り返す彼の手は、ゴツゴツ荒れた農夫の手だった。

そ れ以来、どこに旅しても頻繁に、慌てる同行の役人たちをなだめすかしては飛び入り訪問のわがままをさせてもらった。普通、途上国の教師たちは田舎の学校が 大嫌い。大枚を積んでまで政治家に取り入って、都会に転勤してしまう。最もひどいのは、そうでなくても不足がちな英語や数学の教師。事前通告なしの視察を するたびに見た、来ない先生を辛抱強く待つ幼い顔は、教育制度改革なしには援助融資拒否という姿勢を保つ源動力となった。

スリランカの辺鄙な村では、もうひと月も待っているのと堪えきれずに泣き出した小学1年生の教室で、じゃあ今日だけでもと臨時英語教師になりすましたこともあった。ABCを歌い、童話を読み、感想文の発表会をし、楽しい1日を過ごさせてもらった。

そ れを「変事」と聞いて飛んできた、土地の政治家の慌てた顔に、堪忍袋の緒が切れた。明日も来てとすがりつく子供たちの前で、私腹を肥やすより国の将来を思 え、君はそれでも政治家か、人の親か、と激怒した。「先生ありがとう、もういいから」と、一生懸命なだめてくれたあの子たちの澄んだ瞳を忘れることなどで きやしない。

トルコの偶然から通算して2000日近くの出張を重ねた計算になる。出会った生徒も親たちも何人になるのか、もう数え切れない。名前や顔はいつの間にか忘れてしまっても、皆そろって「恩師」と敬う心に変わりはない。

アンカラの散歩で出会ったあの人は、編み上げたレースの敷物を譲ってくれた。その宝物を出すたびに、あの朝の貴重な教えを思い出して頭が下がる。

2005年5月号『選択』に掲載

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